インディアナポリス研究会

中年の主張

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3と4  本来、このコラム「3と4」は、2012年ごろに書かれたコラム「1点と2ミニッツ」に続く数字シリーズ・コラム第二弾として企画されていたものなのであったが、なんやかんやで歳月は流れ、7年後、ようやく日の目を見る事と相成った。

 ちなみに、元々の原題は「3ポイントコンバージョンと4th&ギャンブル」であり、「3ポイントコンバージョンこそチーム力を測る指標である。」と「4th&ギャンブルで常にパントは疑問」というような事を書くつもりだったのであるが、後者はともかく、前者については、7年の月日が流れて考えがだいぶ変わったので、こちらは割愛して、後者「4th&ギャンブルで常にパントは疑問」についてのみ主張したい。って、もうすでに表題の意味がなくなっているが。7年の歳月に免じて、ゆるしてちょ。

 また、数字シリーズ・コラムには、続く第三弾があって、そちらの表題は「56と40239」である。公開は14年後かなあ。何の数字か、分かるかなぁ。そんなに難しくはないけどね。

 さて、いよいよ本題の「3と4」であるが、その前に一冊の本を紹介したい。「オタクの行動経済学者、スポーツの裏側を読み解く」である。結構、トンマな邦題が付けられているが、アメリカ人の書いた本で、原題は「SCORECASTING」である(あと、副題もついているが、長いので割愛。)。まあ、昨今流行の統計学で現実を面白おかしく説明しようという類の本である。そのスポーツ版である。

 まず、あらかじめ断っておくが、私はこの手の統計学で現実を解釈しようとする本、というか態度には、あまり加担しないタイプの人間である。それが間違っているというのではなく、ほとんど無意味だと思うからである。というのも、その統計学的数値が、現実とあまりにもかけ離れてしまった場合には、その数字が、たとえ正しくとも、だれも信用しなくなってしまうからである。

 かつて、ある特別な指標で、NBAプレイヤーを数値化したら、そのトッププレイヤーは、ほとんどオールスターと同じ顔ぶれになっていて、私は思わず笑ってしまったことがある。「なんだ、こんなの算数する必要ないじゃん。」である。また、逆に、それで数値化したら、全然知らない選手だらけになってしまっていたら、今度はかえってその指標が疑われる事になるであろう。

 かつて、サイバーメトリックスの元祖、アスレチックスが思わぬ選手でロースターを構成した事があったけれども、あれは「安い給料」という縛りの中でのロースターなので、その縛りが無かったら、やっぱりヤンキースのようなチームを構成したであろう。
 もっとも、最近はATの進歩が著しくて、人間の頭脳ではまるで理解不能な結論が出されて、それが案外正しかったりするらしいが、それはまた別の話である。

 数字と人間の認識、すなわち直観のどちらが正しいかという問題は、古くはガリレオの実験やケプラーの計算に見られるように、結局は数字の方が正しいのかもしれないが、一方では誤っている数値や計算も多い。とりわけ、昨今流行の俗流統計学では、そんな数値ばかりであろう。「数字はウソをつかない」という言葉もあるけれど、その言葉の裏には「数字はウソをついている」場合も多い事を忘れてはなるまい。

 とまあ、概論はともかくとして、この本「オタクの行動経済学者、スポーツの裏側を読み解く」には、そのようなスポーツと数字の関係が色々紹介されているので、面白そうなところを、いくつかここに紹介したい。もっとも、この本は2011年出版と、ちょいと古い本なので、その当時のスポーツ界、とりわけアメリカのスポーツ界を知らない人には、よく分からない話かもしれないが、それはゴメンナサイ。

 まずは、NBAのブロックショットの話である。こちらは、フットボールのカテゴリーなので、「バスケットボールの事は知らん」とか言われちゃうと、実も蓋も無いが、バスケットボールのブロックショットというプレイを知らない人は、読み飛ばしてください。

 バスケットボールのブロックショットは、シュートをブロックすれば、とりあえず1カウントされるけれども、ある人、ジョン・ホイジンガという人が、一口にブロックショットといっても、その価値に上下がある事に気が付いた。例えば、ブロックショットした結果、アウト・オブ・バーンになって敵ボールになるのと、味方にボールが渡るのでは、価値がまるで違う。また、同じブロックショットでも、3ポイントのブロックとダンクシュートのブロックではまるで価値が違う。念のため書いておくが、勿論後者の方が価値が高い。3ポイントはブロックしなくても成功率はほぼ3割であるのに対し、ダンクシュートはほぼ10割であるからだ。そうして、勿論最悪のブロックショットはボールテンディングである。しないほうがマシだからである。

 という感じで、相手チームにわたってしまったブロックショットは1点、自チームは2点、3ポイントは1.2点、ダンクシュートは1.8点、ボールティンディングは−2点等々、それぞれのブロックショットを数値化して計算しなおしてみると、思わぬ、というかある意味予想通りの結果が出たのである。 勿論、その数値化自体は恣意的なので、意見はいろいろあると思うが、とりあえずの結果である。ちなみに、ここに挙げた得点法も、私が説明のために分かり易くしたもので、ホイジンガが実際に行った得点方式とは違う。

 当時の代表的なブロックショット王はドワイト・ハワードであったのだが、このような謂わば「新ブロックショット得点法」で勘案すると、細かい数字は省くが、なんとティム・ダンカンが真のブロックショット王になるというのである。しかも、恐るべき事に、ダンカンは3シーズン丸々でボールテンディング無しだったというのである。Mr.ファンダメンタルの面目躍如といったところであろう。

 当時、NBAを見ていた私はドワイド・ハワードはイマイチ好きになれなかったのであるが、こういう統計学的な数値を見せられると、それが納得できたりする。こういう、印象に対する裏打ちというのが数字の大きな役割だと思う。もっとも、ここに示したように、その数値をどう取るか、あるいはどう計算するかによって、現実を見る目を誤らせるのも、また数字だと云えよう。

 というような話を、これから2,3回、この本「オタクの行動経済学者、スポーツの裏側を読み解く」を紹介しつつ、していきたいと思う。今回は、その概要と第1回である。前年度のオフ企画「あの頃、君はこう見られていた。」のディフェンス編をやると思っていた方、ゴメンナサイ、今年はこれです。

                                   2019/7/10(水)

 この本「オタクの行動経済学者、スポーツの裏側を読み解く」には、玉石混交様々な統計学的記事が紹介されているが、その中でも白眉、少なくとも私にとっては最も説得力のある記事がこちら、「楽しい我が家」である。
 まあ要するに、ホームフィールド・アドバンテージについての考察なのであるが、非常に説得力があるので、私の感想を交えつつ、ここに紹介したい。

 まず、大前提として、ありとあらゆる競技、ありとあらゆる時代、ありとあらゆる時代を通じて、ホームフィールド・アドバンテージが厳然と存在するという事である。

 この本の著者、というか研究グループは、40ヵ国以上、19種目のスポーツリーグを時間の遡れる限り、調査したところ、驚くべきことに、ほとんど全ての地域・時代の多種多様なスポーツリーグで、ほぼ必ず地元が有利だったというのである。むしろ、地元が不利である方が例外的なぐらいで、NFLでは44シーズンでただの一度1968年度だけで、このシーズンのみホームチームが負け越しているらしい。カレッジフットボールに至っては、100年以上の歴史で、ただの一度もない、というのである。その表は以下の通りである。

競技 カテゴリー ホームの勝率 最近10年間のホームの勝率
サッカー MLS 69.1% 69.1%
セリエA 67% 65.7%
中央アメリカ 65.2% 65.2%
ラ・リーガ 65% 64.3%
南アメリカ 63.6% 63.6%
プレミアリーグ 63.1% 63%
ヨーロッパ 61.9% 61.9%
アジア及びアフリカ 60% 60%
バスケットボール NCAA 69.1% 68.8%
NBA 62.7% 60・5%
WNBA 61.7% 61.7%
クリケット 世界のクリケット 60.1% 57.4%
ラグビー 世界のラグビー 58% 56.9%
アイスホッケー NHL 59% 55.7%
フットボール NCAA 64.1% 63%
NFL 57.6% 57.3%
アリーナフットボール 56% 56.5%
野球 MLB 54.1% 53.9%
日本のプロ野球 53.3% 53.6%

 原著にはデータ取得期間というのがあるけれども、煩瑣になるので割愛した。サッカーがほぼ10年くらい、それ以外は1ほぼ50年〜100年くらいのデータ取得期間である。「過去10年のホームの勝率」が「ホームの勝率」と同じなのは、データ取得期間が同じ、あるいは短いものである。ちなみに、我が日本プロ野球はデータ取得期間が1998年〜2009年と、ちと短い。残念。メジャーリーグは1903年〜2009年、NCAAフットボールは1869年(!)〜2009年、世界のクリケットは1877年(!!!)〜2009年。って、どこにその記録が残ってんだ。

 クリケットのデータはともかくとして、この表に一目瞭然なように、ホームの勝率に時代や地域性はない。1920年代のメジャーリーグも2000年代のメジャーリーグもホームの勝率はほぼ54%であり、セリエAもプレミアリーグも南米のサッカーリーグもホームの勝率はほぼ65%である。

 そうして、もう一つ興味深い事は、各競技ごとにホームの勝率はほぼ一定しているという点である。サッカーは65%、バスケットボールは62%、フットボールは57%、野球は54%。地域や時代、プロアマ問わず、である。これは結構重要な事実なので、記憶しておいて貰いたい。まあ、この時点でピンと来る人はピンと来ているかもしれないが、ご容赦を。

 また、野球には、「後攻め」という、あからさまにホーム側有利なルールというか慣習があるにもかかわらず、ホームの利が最も低く、一見、ルール上はホームとビジターに利害の差の無さそうなサッカーやバスケットボールのホームの利が高いというのも、面白いところである。まあ、この時点でも、ピンと来る人はピンと来ているかもしれないが。

 あと今ここに、私は「プロアマ問わず」と書いたけれども、NCAAのバスケットボールとフットボールは数字が突出している。
 しかし、これにはちゃんと理由があって、NCAAの強豪校はシーズン当初に、一種の招待試合というか、シーズンチケットホルダーのための御前試合というか、弱小校とカードを組む(シーズン当初は、NCAAやカンファレンスの意向に関係なく、自由にカードが組める。)。いかにもアメリカらしい話であるが、これによってNCAAのホーム勝率は跳ね上がっているらしい。で、この分をきれいさっぱり差っ引くと、バスケットボールは62%、フットボールは57%と、各競技ごとの定数に落ち着くらしい。

 という訳で、この各競技ごとのホーム勝率定数というのは結構強力な数字なのである。では、その理由は何かという事を、この本「オタクの行動経済学者、スポーツの裏側を読み解く」は、ホーム有利に関する様々な通説を批判・考察していくわけであるが、それを順を追って紹介したい。


 まずは、通説その1「観客の応援で勝つ。あるいは選手のパフォーマンスが向上する。」

 まあ、こんなのはちょっと考えれば、間違っているのはすぐ分かる訳であるが、数字的に実証した人は少ないであろう。この著者はバスケットボールのフリースロー成功率で証明している。過去20年間のNBA観衆2万3000人を超えるゲームで集計したところ、ホームでの成功率は75.9%。ビジターでの成功率は75.9%。なんと、小数点以下第1位まで同じである。しかも、シチュエーションごと、「接戦」とか「第4クォーター」とかで集計しても変わらないらしい。

 そのほか、ピッチャーの球速やコントロール、キッカーやパンターの飛距離等々もホーム・ビジターの差は無いという結果が出たらしい。

 ちなみに、ここで三振やファーボール、野球のエラー、インターセプト等々、相手チームの選手や審判、球場状況との絡みで数字に差が出るものは、当然ながら計算していない。

 まあ、当たり前の話ではある。私も長い間スポーツを見てきているけれども、「やっぱ、ホームは球速上がるわ〜。」とか、「やっぱ、ビジターだと飛距離落ちるわ〜。」なんて話は、見た事も聞いた事もないので、この通説「観客の応援で勝つ。あるいは選手のパフォーマンスが向上する。」は完全な間違いであると結論付けて良いと思う。
 ヒーローインタビューなどで、「観客の皆様の応援で勝つ事が出来ました。」なんていうのは、完全なリップサービスと結論付けて良いと思う。人によっては、プラセボ効果的なものはあるかもしれないが。

 また、ここにはひとつ興味深い記述があって、NHLの「シュートアウト」やサッカーの「ペナルティキック」では、かえって地元の利が消えてしまっているというのである。ペナルティキックの詳しい数字は書いていないが、シュートアウトは地元の勝率が49.4%に落ちてしまうというのである。これも、結構重要な事実なので、記憶しておいて貰いたい。


 さて、通説その2は「遠征による疲労」

 これも広く流布している通説であるが、調べるのは簡単である。地元が同じチーム同士の対戦、あるいは近いチーム、すなわち遠征しなくてよいチーム同士の対戦結果を調べればよいのである。ジェッツ対ジャイアンツとかクリッパーズ対レイカーズとかジャイアンツ対ドジャース(ちと遠いか、)とかネッツ対ニックスとかである。で、やっぱり調べてみると、ホームチームの方が有利という結果になるのであり、定数は不変なのである。

 日本プロ野球のジャイアンツ、ヤクルト、横浜なんかで調べてみても同じ結果が出ると思う。もしかしたら、ちょいと違うのかもしれんけど。

 サッカーなどで調べると、 距離の近い遠いも関係ないらしい。

 この「遠征による疲労」の説の論拠は、「自宅の方が快適で、コンディション良好だから。」であろうけれども、もし、それが正しいのなら、「時代による変化なし」の説明が付かなくなる。普通に考えたら、移動手段の発達した現代の方が遠征は楽になっているであろうし、宿泊施設も現代の方がずっと快適であろうからだ。

 また、人によっちゃあ、自宅よりホテルの方が良く眠れるという事もあるだろう。実際、エロい意味ではなく、自宅だと子供がうるさくてよく眠れないから、シーズン中はホテル、あるいはウィークリーマンションみたいなのを借りているなんていう話を聞いた記憶がある。

 つう訳で、私も「遠征による疲労」はほとんど無い、と思う。


 そして、通説その3は「ビジターの日程が厳しい」

 まあ、これは原則週一のサッカーやフットボール、また、ホーム、ビジター共に原則連戦のMLBや日本プロ野球では関係ないが、NBAとNHLにはハッキリある。

 NBAやNHLでは、ビジターの日程がどうしても厳しいので、連戦2戦目の勝率はどうしても落ちる。また連戦でないにせよ、週4試合みたいな短期間での多試合もビジターは多い。
 確か、数年前、ポポビッチがダンカンやジノビリといった年配者の主力を休ませて、物議を醸した事があったが、それはこういう状況であったのだろう。

 この著者は、これはリーグがホーム有利の日程を作っているとも述べているが、その側面も無くは無いであろうが、遠征費用という経費的、あるいは過密日程の消化といった日程作成上の技術的問題が大きいのであろう。短期間で多くのゲームをこなした方が、遠征宿泊費等々の経費が削減できるからだ。
 NBAはどうしても、大陸の反対側のチームと毎年必ず15戦しなければならない(筈、たぶん。)ので、どこかで無理が生じてしまうのであろう。

 もっとも勿論これは、NBAとNHLに限っての理由なので、他のスポーツやリーグのホーム有利の理由には全然ならない。


 通説その4、「ホームの特徴を利用できる」

 天候や球場の形状・特徴をホーム側は利用できるので、ホームが有利という説であるが、これもほとんどないというかゼロに等しいらしい。

 まず、天候の慣れ不慣れであるが、これは統計学的には、まったく無いらしい。寒い土地のチームは寒い日のゲームでも勝率は変わらないし、温かい土地のチームは温かい日のゲームでも勝率は変わらない。

 こんなのも、考えてみれば、当たり前の話である。プロ、あるいはセミプロになるようなレベルの選手は、当然ながら、晴れ、曇り、雨、風等々、大概の天候下でのプレイ経験はあるであろうし、ノウハウもあるであろう。「このピッチャーの球速は150キロ/時であるが、雨の日だと130キロ/時に落ちる。」とか「このラインバッカーの晴天時でのパフォーマンスは未知数である。」なんていうスカウティングレポートは読んだ事が無い。
 強いて挙げれば、ポリネシアとかミクロネシアといった地方のラグビー選手の雪の日のパフォーマンスが未知数ぐらいであろう。まあ、初めてでも、10分もプレイすれば慣れるであろうが。

 そういえば、昔、近鉄、ヤクルト等で活躍した吉井が雷を理由に降板した事があったけれども、私の記憶では、天候とプレイヤーというカテゴリーにおける唯一の記憶である。

 また、球場の形状という意味では、野球がその最たるもの、つか唯一のものであろうが、この著者は、いくらか計上は出来ないけれども、わずかながらホームが有利であろうと述べている。

 しかし、私は、これもほとんどない、あるいは皆無だと思う。野球場の形状がゲームに与える影響の最たるものは、クッションボールの処理だろうけれども、私は3000試合近く野球を見ているであろうが、クッションボールの処理がゲームの勝敗に直結したという記憶は一つもない。クッションボールの記憶と云えば、昔、新庄が甲子園でクッションボールの処理を大きく誤った事と、高橋由伸がルーキーイヤーからクッションボールの処理が上手かった事ぐらいである。

 また、球場の狭い広いとホームの有利不利もこれも全然関係ないであろう。狭かろうが広かろうが、ホーム、ビジター両チームに同様に有利不利になるであろうからだ。個人レベルでは有利不利はあるだろうが、チームレベルでは均されてしまうだろうからだ。

 また、野球に限らず、ホームの球場の施設等をホームチームに有利に作る、あるいはイタズラをする、というものもあるであろうが、効果は限定的であろう。全競技、全時代、全地域を通じてのホーム有利の根拠にはなるまい。

 昔、ラン&ガンの得意なチームがゴールリングのネットをゆるくして、より速攻を出しやすくしたという話を読んだ事があるけれども、そんなような事を、全競技、全時代、全地域のチームがやっていたとはとても思えない。

 また、ビジターチームのロッカールームを不潔ないし不快にするというような事もよく読むけれども、どこまで効果があるかは不明だし、かえって逆効果もありそうだし、なにより、そんなショーモナイ事を全競技、全時代、全地域のチームがやっていたとはとても思えない。

 という訳で、この通説その4「ホームの特徴を利用できる」も、その効果が全くないとは言えないが、非常に小さい、あるいは限定的と云えよう。ホーム有利の大きな根拠にはなりえまい。


 以上、通説4つ、この世におけるそのほか多くの通説同様、簡単に否定されたわけである。これもまた、思い付きの理由付けというものが、如何にいい加減なものであるかという数多い事例のうちの一つであろう。

 さて、では、ホーム有利の真の理由は何なのだろう。それはこの本「オタクの行動経済学者、スポーツの裏側を読み解く」の著者の主張するところによると、「審判の判定がホームに有利」だからである。そうして、私も全く完全に賛同する。

 私が先に、「ホーム勝率一覧表」のところで、「ピンと来る人はピンと来ているかもしれない」と書いたように、この勝率、勝ちやすさの順序は、要するに、各競技における勝敗に関する審判の判定の関わり具合の高さの順序なのである。

 サッカーという競技は、極端に云えば、敵陣、もっと云えばペナルティエリアでファウルを採るか採らないかが勝敗の大きな分かれ目のようなゲームである。
 一方、野球はといえば、それは勿論、ストライク・ボール、アウト・セーフ、ファウル・フェアが勝敗に大きく関わるけれども、その判定で微妙なものは少ない。ほとんど無い、といっても良いかもしれない。大概は、あからさまにストライク、ボール、ファウル、フェア、アウト、セーフである。もちろん、微妙なものもあるけれども、それがそのまま勝敗に直結するシーンで現れる事は少ない。間接的にはともかく、直接的には少ないであろう。私の印象としては、100試合、あるいは200試合に1回ぐらいである。実際は、もっと少ないかもしれない。

 サッカーのおける審判の判定が、ホーム有利になりやすい統計として、この本が提出しているのが、「ロスタイム」、今で言うところの「アディショナルタイム」である。これも最近は時計を使って計測するようになったけれども(たぶん)、一昔前は、完全に審判の気持ちひとつだった。って、今調べたら、やっぱり計測している訳では無いらしい。つか、同じものらしい。ただ、なぜか日本では、「ロスタイム」と表現していたらしい。紛らわしい。ただ、20年くらい前から、会場に表示はされるようになった。

 で、これを調べてみると、面白い事に、というか、やっぱりというか、ホームに有利に笛が吹かれているのである。この著者の研究グループが調査したところによると、「接戦でホーム側リードの場合、ロスタイムは短くなる」傾向があり、逆に「接戦でホーム側ビハインドの場合、ロスタイムは長くなる」傾向があるというのである。

 また、先に、私は、野球は審判の判定の影響が少ないと書いたけれども、ストライク・ボールも地元に有利に判定されやすいという傾向がハッキリ出ている。それも、試合で重要な場面になるほど高くなるというのである。ただ、それが野球の場合、サッカーに比べると、影響度が低いというだけで、やっぱり影響はしているのである。それが54%とという数字であろう。

 そうして、サッカーにおける審判の判定の影響の最も分かりやすい現象は、何といっても、ワールドカップにおける地元チームの活躍であろう。ほとんどの大会で、地元チームが通常の2割増しぐらいの結果を出すのは、審判の笛で簡単に説明が付いてしまうと思う。

 また、先のワールドカップ(2018年・ロシア大会)で、強豪チームと云うか、人気チームの多くがコケて、小国というか不人気チームが勝ち上がったのも、審判の笛が今まで、地元チームはともかく人気チームに有利に吹かれていた事の裏からの証明であろう。ビデオ判定の導入で、いくらか公正になったのである。人気チームはともかく、地元ロシアチームにとっては、ちょいと不幸な導入だったかもしれないが。

 ちなみに、NFLもビデオ判定導入以後は、ホームの勝率が落ちているらしい。

 また、先に私はNHLの「シュートアウト」やサッカーの「ペナルティキック」には地元の利が消えると書いたけれども、これは当然、これらのプレイに審判の笛が介在する余地がほとんどないという事で説明が付く。ゴールラインを割る割らないぐらいで、審判が登場するくらいであろうが、そんな事は非常に少ないであろう。大概は、あからさまに、誰が見ても、ゴールはゴールである。フリースローの件も同じ理由で完全に説明が付く。

 また、日本においては、ホームの有利不利、ホームフィールドアドバンテージに相対的に鈍感であること、そもそもホームフィールドアドバンテージやホームタウンディシジョンに対応するような日本語の無い事、これらは日本のメインのスポーツが野球だったという事で簡単に説明が付く。
 もっとも、日本の場合は、ホームの有利不利以前に、甲子園とか神宮、あるいは国技館や花園といった、ひとつの球場に集まってスポーツ大会を開催することが多いので、そういった意味でもホームフィールドアドバンテージに鈍感であったのであろう。

 とはいえ、甲子園大会において、総じて近畿地方の高校が好成績なのは(統計を取ったわけではなく、あくまで印象だけれども、)、やはり、ホームに近い感覚でプレイできるという事がその一因であろう。
 同様に、同じ田舎(「地方」と云うべきかな、)でも、四国の高校が総じて好成績で、東北の高校が総じて苦しんでいるのは、やはり、これが一因になっていると思われる(最大の要因は練習時間であろうけれど、)。東北の高校も準決勝決勝ぐらいまで勝ち上がれば、判官びいき的に人気が出てホームチーム的に戦えるであろうが、1回戦2回戦では、やはりビジター扱いだと思う。

 日本ではホームフィールドアドバンテージに鈍感だと今私は書いたけれども、日本シリーズにおける、つうか日本プロ野球における三大誤審騒動は「円城寺、あれがボールか秋の空」、「岡村のブロック」、「大杉疑惑のホームラン」の3つであろうが、この3つがいずれもセントラルリーグ有利、しかもうち2つが、正誤はともかく、巨人有利の判定だったという事は特筆すべきであろう。やっぱり、ホームチーム、あるいは人気チームに有利に判定されているのである。
 そういえば、「篠塚疑惑のホームラン」もやはりホーム、そうして巨人有利であった。

 ここまで、私はサラリとホームチームと人気チームを同じように扱っているけれども、お気づきの方はすでにお気づきであろうが、これがすなわちホーム有利の真因、ホームチームに有利に笛が吹かれがちの真因なのである。
 要するに、観客からのプレッシャーを無意識的に感じて、審判はついホームに有利に判定してしまうのである。実際、統計を取ると、観客が多ければ多いほど、ホーム有利になり、少なければ少ないほど五分に近づくらしい。まあ、これは仕方あるまい、審判は責められない。自分が下した判定で、5万人から喝采されるのと、5万人からブーイングを喰らうのでは、マゾでもない限り、前者に傾く。

 また、同じサッカーでも、南米やヨーロッパに比べて、アジアやアフリカのホーム勝率が低いのは、観客の少なさ、すなわち人気の無さという事で、簡単に説明が付く。
 ただ、MLSのホーム勝率が突出して高いのは、これは分からない。私には説明が付かない。新興リーグ、それもサッカー不毛の地アメリカでのリーグという事で、なるべくホームチームを勝たせたいリーグ側の意向、なのかもしれない。

 また、、私は先に、「プロアマ問わず、ホームが有利。」みたいな事を書いたけれども、アマチュアといっても、NCAAみたいなプロみたいなアマはともかく、本格的なアマ、って変な言い方だけれども、その辺のオッサンがやる草野球や草サッカー、両チームの余った人が審判をやるような、そういうアマチュアのゲームでは、ホーム有利にはならないであろう。って、その前に、ホーム球場自体が無いだろうけれども。

 以上、これがホーム有利の考察の全てであるが、どうでしょう、カンペキではあーーーりませんか。私はこの本を読んで、7年くらい経過しているけれども、その反証を見たり聞いたりした事はない。2018年のサッカーW杯のように、それを後押しするような事実ばかりである。出色の記事だと思う。

                           6月みたいな7月の天気 2019/7/20(土)

 ホントは、前回の記事投稿後、即座に第3弾を寄稿する予定であったが、突如、夏らしい季節になったり、腰を痛めたりで、俄然やる気が無くなり、まさかの3週間後。ようやっと、第3弾です。つか、もうそこまで開幕が迫っとるぞ。オフ企画でなくなる〜〜。

 と、その前に、前回の記事で書き忘れた事をちょこっと。

 前回の記事では、「ホーム有利の根拠は、ほぼ審判の笛。」という結論を提出した訳であるが、とすると、我々ファンの球場での選手への応援というのはほぼ無価値になる。少なくとも直接的に選手のパフォーマンスをアップさせる訳ではない。実際に効果的なのは、審判へのヤジ・中傷・プレッシャーという事になる。まあ、そんな事をするために、わざわざ入場料を払うというのも馬鹿らしい気はするが。

 さて、いよいよ本題、第3弾である。この第3弾は今まで紹介した過去二つ記事が私が大いに賛同したのとは大きく異なって、私がおよそ賛同しがたい、少なくとも懐疑的な見解である。それは、「NFLのドラフトは、一般的にトレードダウンが有利」という説である。

 この説の根拠、というか起源は、NFLファンなら皆さんご承知の通り、ジェリー・ジョーンズ及びダラス一派な訳であるが、この説の統計学的根拠は、この本「オタクの行動経済学者、スポーツの裏側を読み解く」にも、あまり明白にされていない。

 この説「NFLのドラフトは、一般的にトレードダウンが有利」の根拠となるのが、NFLファンなら皆さんやっぱりご承知の通り、件のバリューチャートであるが、このバリューチャートの考案者はジェリー・ジョーンズの友人で、ジョーンズ曰く「俺の友人で、最も賢い。」マイク・マッコイという人物である。このマッコイが(彼もコ・オーナーのひとりだった。)、ジョーンズの相談を受けて、過去4年間のNFLのドラフトを基に作成したのが件のバリューチャートなのだそうである。

 だた、このマッコイ自身も告白しているらしいが、この数値は計量経済学的に厳密なものではなく、割にいい加減な数値をもとに作成したものであるらしい。例えば、全体1位は3000ポイント、2位は2600ポイントとなっているけれども、この400ポイントの差に、数学的に絶対的な根拠は無いらしい。

 ただ、この、おそらく前代未聞のバリューチャートの威力は強力で、皆さんご存じの通り、アッという間にNFLを席巻した。数字の持つ強力な機能の一つである。価値の分かりにくいものを数値化すると、人はほとんど盲信的に信用する。分かり易い実例が絵画であろう。値札が無ければ、ほとんどの人は見向きもしないが、ひとたび値札が付けば、突如、価値が生まれる。
 あとまあ、こちらは絵画ほど非科学的ではないにせよ、自動車のスペックなんかも盲信されがちなものの一つではあろう。馬力や燃費といったものは、自動車の絶対的な価値ではないし、どちらも本当の意味で厳密に測定するのは難しいものである。数値と実感が、合っていたり違っていたりしがちなものであろう。

 という訳で、このマッコイのバリューチャートにも疑義を呈する人たちがいて、とある行動経済学者2名(名前は煩わしいので省く。両名、ごめんなさい。)が、もう一度このバリューチャート、というかNFLのドラフト順位の価値を統計学的に調べなおしてみた。すると、「NFLドラフトは、トレードダウンした方がおおよそ有利」という結論に達したらしいのである。その分かり易い実例がペイトリオッツとイーグルスの両チームだというのである。また、その他のチームでも、トレードダウンをしてピック数を増やした方が概ね成績を向上させているというのである。ちなみに、その反対の実例、すなわち、トレードアップを繰り返し、結果、成績ダウンしている代表的な2チームがレッドスキンズとレイダースだというのである。

 こんな実例を出されてしまうと、何だか妙な説得力が生まれてしまうが、私はまだ半信半疑というか、信じるに至っていない。スキンズとレイダースはともかく、ペッツとイーグルスの好成績に関しては、やはりベリチックとリードという名コーチ二人の力を外して考える事は出来ないだろうし、そのリードもKCではマホームズを結構無理気味なトレードアップで獲得し、成功している。この両チームの成功、そうしてスキンズとレイダースの失敗は、やはりコーチングやスカウティングによるものが大きいと私は思う。トレードアップやダウンはあまり関係ないと思う。無論、検証するのは難しい、つか、ほぼ不可能に近いだろうけど。

 ただ、この本の主張するところで、全体1位のプレイヤーにその成績以上の給料を支払っているというのは、私の実感的にも、まったくその通りだと思う。たとえば、1位のプレイヤーには10位のプレイヤーの平均して倍の給料を支払っているというのは、まったく以って過払いもいいとこだと思う。どう考えてみても、1位と10位の選手の間に、平均してそれだけの力の差は無い。

 私の過去15年間のドラフト経験的にも、能力的には1位〜10位で1グループ、11位〜25位で1グループ、26位〜40位で1グループといった印象である。あくまで、漠然とした印象によるクラス分けだけれども。

 でも、そう考えると、費用対効果という意味では、1位より10位、11位より25位、26位より40位の方が価値が高い、あるいはお買い得という事になる。
 実際、2018年度ドラフトの全体1位は、ご存じベイカー・メイフィールドでサラリーは総額およそ3200万ドル、10位はジョシュ・ローゼンでサラリーはおよそ総額1700万ドル。1年目の成績はともかく、また最終的なキャリアはともかく、少なくとも1年目終了の現時点で、両者の能力に2倍の差があるとは、とても思えない。

 でも、これは、あくまで給料を支払うオーナーとそれを受け取る代理人との間の問題なので、ファンにとっては、サラリーキャップという問題はあるにせよ、どーでもよい事ではある。連中にとっちゃ32億円も17億円もたいして差は無いのかもしれない。そもそもサラリーキャップもあるし。貧しい私だって、10円チョコレートを20円で購っても、そんなに苦痛は感じない。100円の缶コーヒーを200円で購ったら、激怒するけれども。壁をグーで殴って、血の涙を流すけれども。

 さて、貧しい私にとって苦痛なお金の話はそれくらいにして、いよいよこの説「NFLのドラフトは、一般的にトレードダウンが有利」の最終的な根拠は何かというと、先に述べた統計学的な根拠の他に、この著者が自信なさげにこっそりと主張しているのは、要するに「選手の成功不成功なんて、誰も分からないんだから、ピック数を増やした方が、当たる確率が増える分、有利。」という事である。意味的には、「宝くじを10枚買うより、1000枚買った方が100倍有利。」と同じ理屈である。

 本当にそうなのだろうか。だとしたら、全体1位ひとつよりも7巡32ピックの方が32倍価値が高いという事になってしまう。でも、そんな事はないであろう。どう考えてみても、7巡より6巡、6巡より5巡、5巡より4巡、4巡より3巡、という風に上位にいくほど、能力的にも、最終的なキャリアでいっても上だと思う。実際、先に挙げた行動経済学者両名も、上位ほど成績が良いと結論している。ただ、その差は世間一般に考えられるほど大きくはなく、数パーセントでしかないとも主張している。

 そう考えれば、確かにサラリー的には完全にナンセンスかもしれないけれど、それでもやっぱり、上位の方が下位より僅かながらでも成功する確率は高いのだから、やっぱりトレードダウンが有利とはいえないと思う。つか、ドラフトが完全に確率論だけのものとなってしまうと、私の15年来のドラフト研究、あるいはドラフト道楽がまるで無意味なものとなってしまう。

 私はやっぱりドラフトはスカウティングだと思う。昨ドラフトのコルツの26位みたいに、局地的なトレードダウンの成否みたいなものはあるだろうけれども、「一般的にトレードダウンの方が有利」という事にはならないと思う。やっぱり、ドラフトはスカウティングだと思う。ベリチックやリードのドラフトの成功は、やっぱりスカウティングの勝利だろうし、スキンズやレイダースのドラフトの失敗は、やっぱりスカウティングの敗北だと思う。

 つう訳で、来ドラフトのコルツの1位を7巡32個とトレードしたら、バラード殺す。

                                   2019/8/14(水)

 さて、ここまでの三つのお題のうち、最初の二つは大いに賛同、三つ目は反対というのが私の見解であったが、最後に紹介する4つ目は、賛否決めかねるというか半信半疑というか、いまいち自身の立場を決めかねているお題である。それは、もともとこのコラムのお題でもある「4th&ギャンブル」についてである。

 この本「オタクの行動経済学者、スポーツの裏側を読み解く」にある記事よると、アメリカのとある高校では、4thダウンでもパントを全く蹴らないらしい。それどころかフィールドゴールキックも蹴らないらしい。つまり、4thダウンは常に「ギャンブル」なのである。つーか、常にギャンブルなので、もはやギャンブルではなく、通常の攻撃である。更に、キックオフは常にオンサイドであり、敵のパント、すなわち自陣のリターンは完全に放棄して、一切リターンせず、普通にボールが転がり終わるまで、ボールに触らず、待っているだけであるらしい。

 そうして、それらの謂わば異端の戦略も、勿論カウンターカルチャー的な意味で敢行しているのではなく、統計学的な根拠で実施しているらしい。
 その高校のヘッドコーチ、ケビン・ケリーの説くところによると、「4th&ギャンブル」の件は後回しにして、まずキックオフであるが、敵陣30ヤード前後からの守備と敵陣50ヤード前後からの守備では、失点率に大きな差は無いので(この本に具体的な数字は出ていないが、おそらくそういう事だと思う。)、だったら攻撃権を得るチャンスのあるオンサイドキックを選んだ方が有利なのだそうである。

 次に、リターン放棄の件であるが、これは高校レベルだと、30ヤード以上のリターンはほとんど無いので、ファンブルやペナルティのあるリターンを放棄した方が得策だというのである。

 これらは一理あると思う。まず、キックオフであるけれども、20ヤード前後の距離といったら、すなわちファーストダウン1,2回分である。場合によっては一発で獲られてしまう距離である。その距離を得るために、30%ほどの攻撃権を得るチャンスを完全に放棄してしまうというのはナンセンスであろう。一概に比較はできないけれども、ラグビーのキックオフがほとんど所謂「オンサイドキック」であるというのも、その参考になるであろう。あれっ、今は違うのかな。

 次に、リターン放棄であるが、私はアメリカの高校のフットボールのレベルがどの程度かは皆目分からないけれども、NFLレベルでも、そのリターンで得られるであろう距離と反則・ファンブル等のリスクを考えたら、ほとんどの場合、リターンしない方が得策だと思う。

 で、、問題の「4th&ギャンブル」であるけれども、これも上記二つと理由はほとんど同じで、「攻撃権の放棄」とその代償として得られる「数十ヤード」を比較した場合、「攻撃権の放棄」の方が損失が大きいと考えている、というか統計学的な結果が出ていると云うのである。
 例えば、自陣10ヤードからの被タッチダウン率は92%であるのに対し、自陣40ヤードからの被タッチダウン率は77%。とすると、たかだか15%の被タッチダウン率を下げるために攻撃権を失うのは馬鹿らしいというのである。

 ちなみに、これらは、このヘッドコーチ、ケビン・ケリーの研究のみならず、他の多くの統計学者や数学者が研究しても、おおよそ同じ結果が出るらしい。

 さて、フットボールファンの皆さま、どうお思いでしょーか。ちなみに、このケビン・ケリーの率いる高校の成績は77勝17敗1引き分け。この高校をめぐる状況が如何なるものか、私にはさっぱり分からないので正当な評価は出来ないが、数字だけ見るなら、とりあえず「成功」といってよい数字ではある。

 ここに取り上げたケビン・ケリーの3つの新戦略を一口にまとめると、要するに、「従来のフットボールでは、フィールドポジションをボールポゼッションに比べ、過大評価していた。」という事になろう。

 フットボールにおいて、「攻撃している」という状態の定義には二つあって、一つは「ボールを保持している」、すなわち「ボールポゼッション」している状態であり、もう一つは「ボールが敵陣にいる」、すなわち「フィールドポジションで有利に立っている」という状態であろうが、私自身は、後者、すなわち「フィールドポジション」重視派であった。

 すなわち、たとえボールを保持していても、それが自陣10ヤードなら、それは守っている、すなわち「守備」の状態であり、逆にボールを保持していなくても、それが敵陣10ヤードなら、それは攻めている、すなわち「攻撃」の状態と考えていた。
 サッカーやラグビーといったフットボール系統のスポーツの根本原理は、「なるべくボールをゴールに近づける」だと考えていて、アメリカン・フットボールもその例外ではないと考えていた。むしろ、その根本原理をより明確化視覚化したのが、アメリカン・フットボールだと考えていた。

 しかし、この辺の一連の記事を読んでいて思ったのは、フットボールの場合、サッカーやラグビーと比べると、「なるべくボールをゴールに近づける」事が決して第一義ではないかもしれないという事である。
 サッカーやラグビーの場合、ゴールラインを通過すれば、その時点で得点ないし失点だけれども、フットボールの場合、ランプレーの時はともかく、パスプレーの場合、ゴールラインを通過しただけでは得点ないし失点にはならない。レシーバーがボールを完全捕球して、初めて得点ないし失点である。ラグビーでも、一応ボールを地面付けて、初めてトライだけれども、ゴールラインを通過して、それが出来ないという選手はほとんどいない。

 つう事をつらつら考えてみると、フットボールの場合では、ゴール前10ヤードと30ヤードでは価値的にはそんなに変わらないのかもしれない。フィールドゴールやランプレーはともかくとして、パスプレーにおいては実感的にはほぼ同じ、っていうか、ゴール前10ヤードの方がタッチダウンパスは決まりにくいように思う。とりわけ、ゴール前1ヤードとゴール前20ヤードなら、ゴール前20ヤードの方が、断然タッチダウンパスは決まりやすいであろう。まあ、ゴール前1ヤードなら、大概ランだけど。
 と考えると、4thダウンは常にパントというのは、ランプレー主体時代の名残りなのかもしれないとも思う。パスプレーの場合は、空間、スペースの広い方が、当然ながらパスは通りやすい。

 そこで、これまたMADDEN話になって大変恐縮なのであるが、私がかつてMADDENを始めた当初、4thダウンは大概ギャンブルしていた。これは勿論、ケビン・ケリーのような統計学的理由によるものでは全然なく、ただ単に攻撃権を失うのをケチっていただけで、しばらくすると、リアリティが無いのと、パントゲーム自体に面白さを感じて、辞めてしまった。そうして、通常のNFLっぽいゲームに仕立てたのであるが、ただ、その4th&ギャンブルばっかりしていた当時を思い返してみると、それが原因で負けていたとはちょっと思えない。正直、「これ、パント蹴らねー方が有利じゃねーの。」とか思いながら、やっていた気がする。

 まあ、所詮MADDEN話なので埒は明かないであろうが、実感的には、このケビン・ケリーの戦略には同感できる。少なくとも、私に反意はない。また、昨今のNFLでも、あんまりパントは蹴らない方向に傾いてきているので、このケビン・ケリーの戦略はやっぱり正しいのかもしれない。

 ただ、私はサイファーズのゲームを堪能した人間なので、パントゲームが無くなるのは、ちと、というか、かなり寂しい。パンターひとりでチームを勝利に導けるゲームもあると信じたい。

 この戦略が正しいか否かを証明するには、NFL32チーム中16チームがノーパントを実践して、5年間くらいの統計を取って、その成績を調べてみるぐらいしか手はないであろうが、まあさすがにそれは無理であろう。また、それが5年間くらいの統計であっても、選手やコーチの能力の上下、審判の笛、気象条件等々がどうしても加味されてしまうので、完全な証明までには至らないと思う。まあ、さすがに30年くらいやれば、かなりの精度にはなるだろうけれども、「プロチームがそんな実験してどーする。」と突っ込まれたら、それにて終了である。

 そこで、私が提案したいのが(誰に?)、「コルツを使って、試してみる。」では全然なくて(んな事したら、バラード殺す。)、MADDENを使って実験してみたらどうだろうという事である。MADDENだったら、同じシーズンを何度も繰り返せるので、先に述べた選手やコーチの能力の上下、審判の笛、気象条件等も低く抑えられ、割に純度の高い実験が出来るのではないだろうか。まっ、俺は絶対ゼッッッタイやらんけどな。ってか、もう誰かやってかも。

 つう訳で、この「4th&ギャンブル」の件に関しては、数理的には賛成、心情的には反対、みたいなのが現状、あるいは、この本「オタクの行動経済学者、スポーツの裏側を読み解く」を読んで以来、過去7年間の私の心持ちではある。

 以上、私的には賛成2題、反対1題、賛否保留1題、の合計4題のネタを紹介してきた訳であるが、この本「オタクの行動経済学者、スポーツの裏側を読み解く」には、この手のネタが満載、とまではいかないが、玉石混交いろいろ紹介されている。
 とはいうものの、ここに紹介した4つは、白眉の「ホーム有利」論をはじめ、私のセレクトした優良お題4つで、その他にはしょっぱいネタも多い。

 たとえば、「賢いGMは2割9分9厘のバッターと契約する」なんつう、しょっぱいお題もある。

 これは、要するに、「2割9分9厘のバッターと3割バッターでは、能力的には同じなのだから、2割9分9厘のバッターと契約した方がサラリー的には有利」つうネタである。

 そりゃそうだろう。2割9分9厘と3割の違いというのは、数字的に云えば、1000打数299安打か1000打数300安打かの違いである。2シーズンでヒット1本多いか少ないかの違いでしかない。そんなのそれこそ、公式記録員がヒットにするかエラーにするかの違いでしかない。実力的にはほぼ同じ、つうか同等であろう。

 それでも、契約交渉の場では、2割バッターと3割バッターで歴然とした違いはあるのだから、選手サイドは必死で、それこそ必死で3割バッターになろうとする。

 実際、シーズン最終戦での2割9分9厘のバッターの打率は4割くらいあるらしい。また、ボール球にバットを出す確率も高くなるらしい。んで、3割以上のバッターのシーズン最終戦での欠席率も異常に高くなるらしい。

 100打点とか30本塁打とかでも、同じような傾向が出るらしい。それらと違って、3割は減少する可能性もあるだけに、その傾向はより高いであろう。

 まあ、これは仕方あるまい。人間が数字とともに生活を送っていく以上、どこかで区切りの良い数字が必要になる。そうして、それは100打点とか30本とか3割とか20勝とか、10の倍数になりやすい。「統計学的に2514本が良いバッターと悪いバッターの分かれ目なので、2514本を名球会入りの条件にする。」なーんて事には、まずなるまい。いや、分かんないけど。もっとも、そうなったらそうなったで、3割バッターと同様、2514本打とうと無理をするであろうが。一昔前に流行った何キュッパ的な値付けも全く同じ心理による。

 で、当然のことながら、それはFA制度導入後、より顕著になるらしい。

 ちなみに、ボビー・アブレイユはそういうギリ3割とかギリ100打点とかギリ30本塁打とかギリ20本塁打みたいなギリ・シーズンが異常に多い選手であったらしい。今ちょっと調べてみると、ギリ3割はともかく、ギリ100打点、ギリ20本塁打は確かに多い。2003年は20本塁打101打点打率0.300であり、続く2004年は30本塁打105打点打率0.301、芸術的ですらある。盗塁数も、10盗塁20盗塁30盗塁といった10の倍数的シーズンが多い。通算盗塁数もキッチリ400盗塁。まあ、だからといって、アブレイユを咎める気はないけどね。

 そのほか、「カブスファンはカブスの勝率やリグレーフィールドの入場料より、ビール代金に敏感。」なんていう衝撃のネタもある。

 つう訳で、この本「オタクの行動経済学者、スポーツの裏側を読み解く」には、この手のしょっぱいネタも非常に多いので、「お前にほだされて、この本を買ったけれども、意外につまらなかったので、金返せ。」とか言わないよーに。私はアマゾンやダイアモンド社の回し者ではあーりません。


                           秋の虫が鳴いている。2019/8/25(日)
 

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