インディアナポリス研究会

歴史

戦評 '08シーズン

TOPページへ

コルツ部TOPへ

1980終盤

1990初頭
1980終盤

1990初頭
 ここ半年くらい、G+で過去のNFLの試合、かつて日本テレビで放送されていた分なので、主に1990年前後のゲームを、観るとはなしに観ていたのであるが、その感想を書いてみたい。

 まず全体の印象として、プレイヤー全体の動きが、現在(2000年代)に比べると、いくらか遅いという点が挙げられると思う。全体的にもっさりとしている印象である。一方で、個々の選手の体格は、各ポジション共に、今の選手よりも一回り大きい感じである。例外は、QB、パンター、キッカーぐらいであろうか。その為か、グラウンドが今よりも狭いような印象を受ける。これはひとつには、現在とはカメラ位置が違うという理由も挙げられるだろう。

 これらは一口に言ってしまえば、現在より、全ポジションにおいて、パワー指向が強いという事になるだろう。逆に言えば、80年代から2000年代にかけて、スピード指向が高まったともいえる。
 もっとも、これは80年代から2000年代の動きというよりは、NFL、というかフットボールが始まって以来の大きな流れなのかもしれない。パワーからスピードへ、というのが、そのままフットボールの発展史だとも云える。
 実際、NFLのゲームに革命を起こしたプレイヤーというのは、O・J・シンプソン、ローレンス・テイラー、バリー・サンダース等々、皆、そのスピードやクイックネスでゲームに革命をもたらしたプレイヤーばかりである。パワーや体格でゲームに革命をもたらした選手というのを私は知らない。オーランド・ペイスやジョナサン・オグデンなども、その体格やパワーというよりは、その体格からは考えられないほどに動ける、スピードやクイックネス、アジリティがあるということで、ゲームに衝撃を与えた選手である。

 このパワーからスピードへという流れが将来的にどうなるのかは私には分からない。もしかしたら、またパワー時代が来るのかもしれない。

 個々の選手に目を移すと、まず目立つのは、やはりダン・マリーノのクイックリリースである。速い速いとは聞いてはいたが、まさかここまで速いとは思わなかった。モーション無しに投げているような印象である。気が付いたら、既にフォロースルーといった感じである。
 現役ではトム・ブレイディがクイックリリースなどと騒がれているが、その比では無いと思う。ブレイディの場合は、どちらかというと投げるまでの判断が早いという感じであり、スロー自体は、勿論早い事は早いが、特別速いという印象ではない。しかし、マリーノの場合は、そのスロー自体が速い。それもとんでもなく速い。比較対象は、現在のNFLにはいないと思う。
 
 私はかつて吉田義男の現役時代のフィルムを見た時の衝撃を思い出した。当時の撮影は8ミリ・フィルムで行われていたので、吉田の守備を撮影すると、大概ボールをリリースする瞬間のコマが抜け落ちているのである。投げ出してから、というか捕球してからフォロースルーまでのコマ数が、他のプレイヤーに比べると2,3コマ少ないのである。ダブルプレーなどは「これ、完全捕球とはいえないから、アウトじゃないんじゃないの。」といいたくなるくらいの速さである。同じ8ミリでの撮影をマリーノにもしたら、同じことが云えるだろう。

 ただし、そのクイックスローがゲームに役立っているかといえば、それはまた別問題のようにも思えた。あれだけのクイックリリースだと、CB、特にゾーンで守っているCBにとっては脅威であろうが、それは同じように見方のWRにとっても脅威だと思う。もちろん、WRは基本的にタイミングでボールを捕りにいくから直接的には関係ないかもしれないが、やはりQBの投球モーションというのは、それなりに目に入るだろうし、それなりにタイミングを合わせるベースにするだろう。実際、マリーノのパスをポロポロ落としているシーンは、WRによらず、散見された。それらは単純にWRの捕球技術に多くの原因があるのだろうが、マリーノのクイックリリースにもその一因はあると思う。第1ターゲットはともかく、第3、第4ターゲット、特にTEやFBあたりは、いきなりマリーノに、そのクイックリリースで放られたら、捕球するのはなかなか困難だと思う。マジック・ジョンソンのノールックパスに戸惑うブラッディ・ディバッツを私に思い起こさせた。

 そのマリーノのライバルというか、マリーノからあらゆる栄光を奪い去っていったジョー・モンタナであるが、こちらは成程すばらしい。ここまで地味に実績を積み重ねてきたペイトン・マニングが史上最高のQBだという声も、昨今はちらほら挙がっているが、はっきり言って、モンタナには遠く及ばないと思う。

 ひとつひとつの細かいQBテクニックも素晴らしいのであるが、まず特筆すべきは、そのパスの捕りやすさであろう。非常にタッチが柔らかく、抜群のコントロールでレシーバーの手元に届く。上に私は、マリーノのパスを落とすのはWRだけでなく、マリーノのクイックリリースにもその責任の一端があると書いたが、モンタナのパスを落とすのは全面的にそのレシーバーに非がある。それくらいモンタナのパスは素晴らしい。
 マリーノが常にモンタナの後塵を拝したという事については、いろいろな理由が挙げられると思うが、ひとつにはこの点があると思う

 現役で捕りやすいパスを放るという点では、マニングとトニー・ロモが双璧だろうが、この両者もモンタナにはやや及ばないと思う。

 そして、その柔らかいパス以上に素晴らしいのは、何といっても、多くの識者が声を揃えて讃えるように、その正確無比な判断力であろう。この点に関して、というか、この点こそ、マニングがモンタナに遠く及ばない点である。私の見る限り、モンタナの判断は全て正しい。
 正しい判断というのは、観客席やテレビの前で、それこそ岡目八目で行う分には、そんなに難しい事ではないが、それをフィールド上で、当事者として、行うというのは決して容易な事ではない。傍観者の3割の成績が上げられれば上出来であろう。

 卑近な比較になるが、素人参加のクイズ番組で、テレビの前にいる時と同じ正解率を上げるのはまず不可能であるという事と同じだと思う。私は出演した事がないので分からないが、テレビの前にいる時の7割くらい正解できれば上出来なのではないだろうか。
 また、西鉄ライオンズや西武ライオンズで活躍した(太平洋クラブ・ライオンズでも、)東尾修投手は、現役時代、配球に窮すると、バックネット裏にいるスコアラーに配球のサインを出させたそうである。さすがにそれをそのまま使うということは少なかっただろうが、冷静な判断ということで、参考にしたそうである。

 クイズや野球という比較的、というか、かなり安全なゲームでも正確な判断を下すのはそれだけ難しいのである。それがフットボールである、クウォーターバックである。危険も甚だしい状況の中で正確な判断を下さねばならないのである。上に書いたように、傍観者の3割の成績で上出来だろう。QBがあらゆるスポーツの中で最も難しいポジションといわれる所以である。

 現役のQBの中でモンタナのような正確無比な判断力の持ち主は勿論いない。この点ではブレイディをモンタナに比する人がいるが、彼の場合は、彼自身が正確な判断力を持っているというよりは、プレイコール自体が正確であるというべきであって、ブレイディ自身は正確な判断力の持ち主という訳ではないと思う。正確な判断力の持ち主というよりは、ミッションの正確な遂行者とでも言うべきだろう。ブレイディに似たタイプとしては、トロイ・エイクマンが挙げられるのではないだろうか。

 モンタナに近いタイプとして強いて挙げるならば、競技は違うが、それは我等がペイサーズの現GM(副社長?)、ラリー・バードだと思う。彼も常にコート上で正しい判断を下してきたプレイヤーだった。その正確無比な判断力と技術、そして貧弱な運動能力、そして白人であること、数々の栄光を手にしてきた事、引退後、マスコミ嫌いである事、かつての所属チームを全然省みない事、等々、両者には共通点が非常に多い。数少ない違いとしては、ドラフト時の注目のされ具合ぐらいか。今調べてみたら、1956年生まれで、年齢も同じなのね。

 とまあ、何から何まで素晴らしいジョー・モンタナであるがいくつか気になった点もある。

 例えば、バックペダルの踏み方などは、マニング等に比べると、幾分かドタバタしている印象を受けた。バックペダルに関しては、いかにもスムースなマニングの方に分があると思う。もっとも、このへんはこの20年の間に技術的進歩があったのかもしれないので、一概にモンタナを責めるわけにはいかないかもしれない。このバックペダルに関しては、総じて現在のプレイヤーの方が上手い。長けている。

 このバックペダルに関連しているのかもしれないが、このモンタナをはじめ、当時のQBの所謂クウォーターバッキングで最も気になったのが、サックを喰らい過ぎる、あるいは投げ捨てが遅すぎるという点である。投げ捨てが遅すぎるため、サック同様のタックルを受ける羽目になっている。プレイが崩れているにもかかわらず、ギリギリまで逃げまくり、何とかパスを通そうとするプレイヤーが非常に多い。
 
 もっとも、これはクウォーターバッキングというよりは、当時の風潮・気分に由来するものなのかもしれない。最近のように、プレイが崩れた瞬間、パッパとボールを投げ捨てちゃうと、「根性無し、男らしくない」等々の非難を、当時は受けたのだろう。その風潮・気分の最大の犠牲者が、このジョー・モンタナだったのかもしれない。ジョー・モンタナの脳震盪により、投げ捨てが非常に賢明な判断であると認められるようになったのかもしれない。

 また、当時、サックやハーリーの多かった理由としては、ブリッツどころか、単純なパスラッシュに対して、オフェンス陣があまりに無力という点も挙げられると思う。ブリッツ対策、パスラッシュ対策が非常に発達した現在とは、この点に関する限り、まさしく隔世の感がある。
 ブリッツピック(アダイの超得意なプレイ。)やブリッツ外しのスクリーンパス(NEが得意なアレね。)などもほとんど見られないし、まず何よりOLがほとんどランブロックに特化されていて、あまりにパスラッシュに無力である。ちょっとキツメのパスラッシュやブリッツを喰らうと、たちまちポケットが崩れてしまう。
 当時のファンには申し訳ないが、ローレンス・テイラーやレジー・ホワイト、ブルース・スミスといったプレイヤーを現在のNFLにそのまま移籍させた場合、同じ数字を残せるかというと、私には疑問である。特にブルース・スミスは大きく数字を落とすと思う。
 「ブラインドサイド」からの情報によると、LT(ポジションの方ね。)の価値や給料が跳ね上がるのは、この90年代前半直後、90年代中盤からだそうである。

 そのほか、当時のゲームを見ていて印象に残った点としては、これはインディファン特有の感想だと思うが、当時のビルズと今のコルツの相似っぷりである。
 この放送は90年前後のゲームが多いため、当時強かったバッファロー・ビルズのゲームが数多く登場するのであるが、その試合っぷりやプレイヤーの動きが今のコルツに非常に良く似ている。これは同じGMにより作られたチームなので、当然ちゃあ当然なのであるが、当時のビルズはまさしくオリジナル・コルツである。ビルズファンから見れば、今のコルツがセカンド・ビルズという事になるだろう。

 セカンドかオリジナルかはともかく、両チームのオフェンスプレイヤー、特にスキル・ポジションはそっくりである、くりそつである。アンドレ・リードの動きや身のこなしなどは、まんまレジー・ウェインであるし、そのほかのレシーバー陣も、コルツファンが見れば一発で分かる、いかにもポリアンが好きそうなタイプばかりである。どういうタイプであるかは、敢えて説明しない。さすがにマーヴィン・ハリソン・タイプは見当たらないが、これはハリソン自体が非常に特殊なタイプのプレイヤーなので致し方ないだろう。ていうか、ハリソンはポリアンのドラフトした選手じゃないしね。

 そしてRB、さすがにアダイとサーマン・トーマスが同タイプと書くと、当時のビルズファンに烈火の如く怒られるだろうし、実際、タイプも違うが、エッジさんとサーマン・トーマスが同タイプであると書いても、ビルズファンに怒られる事はないと思う。この両者、プレイスタイルというか、それ以前の身のこなし方から、性格的なものまで含めて、本質的に良く似ている。当時かなり批判された、マーシャル・フォークを放出してのエッジさんのドラフトも、勿論戦略的戦術的の意味も多々あるのだろうが、一番の理由は、単にエジャリン・ジェームスがポリアンの好みだったから、なのかもしれない。それくらい両者は良く似ている。もちろん、エッジさんはヘルメットを隠されたりはしないが。

 QBはさすがに、あらゆる面に於いて、マニングさんに軍配が上がるだろうし、また似ているとも言いにくいが、ノーハドル・オーディブル多用はまさしくポリアンのチームである。てか、当時からやってたのね。反省も無く。ドン・ネルソンのラン&ガンみたいなものか。

 ヘルメットの一件もそうだが、強い割にはどこか間が抜けた感じがするのも、両チームの共通点といえるかもしれない。そして、プロフェッショナルの権化とでもいうべき、ダラスやニュー・イングランドに負け続けるという訳である。

 こんな感じかなあ。あっ、そうそう、当時の放送映像の隅っこやインターバルに、他会場の途中経過や試合結果という形で、当時のインディのスコアが紹介されることがままあるのであるが、これがまた弱いの何のって。勝っているスコアが一つもない。当時のINDとNEは、ハチャメチャに弱い、お笑いチームだったらしいのであるが、それが10年後、リーグを代表するエリートチームに変貌するのであるから、何が起こるか分からないものである。阪神タイガースの例もあるし、弱小チームのファンの皆さん、腐らずチームを応援しましょう。

 しかし、こういう過去のゲームを見るというのは、本当に面白い。歴史を学ぶとまではいかないが、古雑誌を読むような面白さがある。日本のプロ野球の古いゲームも是非とも放送してもらいたいものである。西鉄の3連敗4連勝や、杉浦の4タテ、「円城寺、あれがボールか、秋の空」などは、永久保存版で見たいぐらいである。そのほか全盛期のV9巨人のゲームとか、阪急王朝時代の南海vs阪急とか、西武vsヤクルトの日本シリーズとか(4回とも全部)、江夏の21球とか、ブライアントとか、見たいものはいっぱいある。

 松坂の夏の甲子園決勝でのノーヒット・ノーランは、一月くらい前、放送されていたが、実に興味深かった。私は初めて見たのであるが、意外に変化球多投なのには驚いた。これならノーヒットノーランも致し方あるまいという内容だった。高校生にあのスライダーは打てない。

                                                暑い。2010/7/21